「…ふと」

「私はおまえにこんなものをやろうと思う。 一つはゼリーだ。 ちょっとした人の足音にさえいくつもの波紋が起こり、風が吹 いて来ると漣(さざなみ)をたてる。 色は海の青色で…御覧そのなかをいくつも魚が泳いでいる。 もう一つは窓掛けだ。 織物ではあるが秋草が茂っている叢(くさむら)になっている。 またそこには見えないが、色づきかけた銀杏の木がその上に 生えている気持。風が来ると草がさわぐ。 そして、御覧。 尺取虫が枝から枝を葡(は)っている。 この二つをおまえにあげる。 まだできあがらないから待っているがいい。 そして詰らない時には、ふっと思い出してみるがいい。 きっと愉快になるから。」 「檸檬・ある心の風景 梶井基次郎・著」の好きな箇所だ。 業務中、ふと窓から見受ける人並みを観ながら感じ、夜半 横に寝てる次男の寝顔を見に行くと同じように「一節」が思 い出された。 台詞のように口に出ちゃう、こんな日もあって良いんじゃない。
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